出版社の強みは本を作ること? これからの話を考えてみた。(更新)

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先日、出版社の方達の前でお話しする機会を得ました。依頼されたのは、音声コンテンツが盛り上がりそうな昨今、スマートスピーカーに代表される最新デバイスとか業界の動向を紹介してほしい、というもの。参加されていた方たちは、主に新規ビジネスなどの領域を担当されている方だったようです。自分にとってもよい考えるきっかけになったので、以下で話の内容をまとめます。

 

音声コンテンツは視覚コンテンツと異なり、行動の多重化が可能です。何かをしながら、コンテンツに接触できるのは他のコンテンツとは異なる大きな特徴です。

音声コンテンツにはベースとなる話が必要で、その体験価値は文章を扱ってきた出版社の強みが活かしやすい状況にあります。ただし、世の中は定額制の会員モデルに向いています。出版社の音声コンテンツもこの波に乗らなければコンテンツの拡充や普及拡大は難しいのかもしれません。

なお、定額制の潮流とは別に、ファン向けコンテンツの盛り上がりがあります。こちらは、定額外のコンテンツでも体験を受け取ってくれるユーザーがいるので、価値を高くできます。

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こうした中で、スマートスピーカーというデバイスが今後さらに来るのか? 皆さんが知りたいところだと思います。私が言えるのは、おそらく「来る」と思っていると感覚がずれていくんじゃないか、ということです。

私は、スマートスピーカーはあくまでも過渡期のデバイスと考えています。現状、Google、Amazon、Apple、Microsoft、LINE、DoCoMoといった各プラットフォーマーがおり、国内ではGoogleとAmazonの2強ないし、LINEも入れて3強と言えます。彼らは現在、自らの経済圏に引き込む陣取り合戦を繰り広げています。

  • Google:OK Google
  • Amazon:Alexa
  • Apple:Hey Siri
  • Microsoft:コルタナさん
  • LINE:Clova
  • DoCoMo:マイデイズ

陣取り合戦の結果、スマートスピーカーはある程度広がりますが、ただスピーカーの普及に目を向けていると未来の姿を見誤る可能性があります。現状のそれらは音声アシスタントに過ぎないからです。

AIが人の生活に溶け込むということは、コンピューターが人をより理解するということです。コンピューターは生活の中のあらゆる場面から人を理解し、反対に人はさまざまなタイミングでより精度の高い情報が得られるようになります。人はその精度の高い情報を自然と受け取っていくことになるでしょう。偉くて立派な人たちが口を揃えて言ってることなので、おそらくこの未来は大きく動くことはないと思います。

未来がそこに向かっているのなら、スピーカーというデバイス自体が本質的な価値ではない、といういうのがわかるはずです。これは、スマートフォンにも言えることです。

たとえば、近い未来、家の中のあらゆるものがスマートスピーカー的にふるまい、プラットフォーム同士がある程度協調性をもって存在します。今でもAmazon AlexaとMicrosoftのCortanaは連携しています。

家の中のあらゆるもの……、テレビ、冷蔵庫、スマートフォン、エアコン、照明、窓、車。今身近にあるものを想像するのが、たぶん未来に近いはずです。人はそれほど進化に前向きではないので、家に入りやすい形でしょう。実際にそうした家電はすでに海外などで登場しつつあります。

この場合、音声アシスタントである必要がないのがわかるはずです。音に限らず、映像、振動、光、もしかすると香りも情報伝達手段になるのかもしれません。現在人の近くにあるものが、より精度高く人を理解するための触覚となり、同時に出力機器にもなるのかなと。

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話を音声コンテンツに戻すと、現在耳をふさがないタイプのイヤホンなどが出始めています。これは定額制サービスによって、音楽を流し聴きする比重がより高くなってくるためと言えます。スマートスピーカーもそうですが、ながら聴きしやすいイヤホンも定額制と相性がいいデバイスです。

出版社の音声コンテンツについては、こうした聴き方の変化に対応した聴きやすい工夫があるといいと思います。また、書籍は基本的に読者と1対1のコミュニケーションですが、音声コンテンツは読み聞かせに近いものがあります。行動の多重化も可能な形であるため、読みやすさを工夫してきたように聞きやすさを工夫する必要もあるかなと。

なお、書籍+朗読となるため、現状で出版社の朗読系コンテンツは割高感があります。コストとして上乗せしたくなるのは理解できる一方、これでは既存の書籍ユーザー、とくにファン向けに特化した形しか可能性がないように思います。

ここで、これまで出版社がリーチできなかった音声を消費するユーザーにコンテンツを届けられると考えれば、新規ユーザーが手に取りやすい値付けも求められるのが当然ではないでしょうか。

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とまぁ、30〜40分話した内容はだいたいこんな感じでした。その後、話合いになったのですが、出版社の人達の新コンテンツへの考え方が大きく2種類に分かれていると感じました。

1つは、なんとなく状況を理解しており、そのための方法を模索しなければならないものの、、実際に手を動かせないでいる人達。おそらく現時点で電子書籍なども展開しており、積極的にコンテンツの切り売りしている出版社です。情報など鮮度が落ちやすいコンテンツを得意とし、雑誌が強い印象があります。

そしてもうひとつは、音声コンテンツが現在の紙偏重のビジネスをさらに大きくする可能性があるのかもしれないが、今のところ懐疑的な人達。こちらは紙であることに強いこだわりのある出版社といった感じ。おそらく紙の出版物だけで、ビジネスがうまくいっていることもあるのでしょう。

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面白いなと感じたのは、この両者に共通したのが、あくまでも紙書籍を考えの主軸置いている人たちということです。歴史ある出版社も多く、参加者は出版業界のベテランが多かった(要するに若くはなかった…)からかもしれません。

しかし、出版社の価値はこれから益々、出版、つまり紙の複製物を出すノウハウではなくなります。彼らの価値はこれまで築き上げてきた書籍財産と、時代を掴む企画力、そして多くの目と手と足を使って知見をまとめあげられることになるはずです。自分もWebにいるとはいえ編集者ですから、求められていくものが変わってきているのをひしひしと感じています。

紙はあくまでも1つのプラットフォームに過ぎません。無くなることはないものの、それが全てじゃないんです。Webテキストや動画、ライブメディア、リアルイベント、音声サービス、もちろん既存の放送メディアなど、出版社の知見が活かせる各プラットフォームが水平に存在し、そこにそれぞれ喜んでくれるであろうお客さんがいます。

そこに喜んでくれる人がいるなら、喜んでもらえるようコンテンツを提供するのが、メディアの人ですよね。出版社って、そんなメディアの怪物たちが集まっている場所ですから、特定のプラットフォームに留まっている方がもったいないです。

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たとえば、大切な誰かにプレゼントを贈るとき、相手の趣味嗜好や置かれた状況など、あれこれ想像して、より喜んでもらおうとするはずです。喜んでもらうために渡し方を工夫したり、パッケージにこだわったり、より喜んでもらえるよう演出しますよね。

プラットフォームにこだわっていては、無難で形ばかりのプレゼントになってしまうのは想像に難くありません。もっと感動してもらいたいし、もっと気持ちを届けたいはず。選択肢は多い方が喜んでもらえるパターンも増えるし、得意なパターンに持ち込みやすくなります。

たとえば、自分が飲食店のお客として想像すれば、ラーメンのような気軽な食べ物を食べたい時も、贅沢なコース料理を食べたいときも、家でスポーツ観戦でもしながら枝豆を食べたいとき(実は今)もあるはずです。コンテンツは、そんなお客さんの気分にあわせた最適な形や演出があってしかるべきなんです。とにかく相手に受け取ってもらえて、より満足してもらえたら、それがすごく嬉しいことなんじゃないかな、と。

そんなこともあって出版社に負けずに頑張ろう、そんな気持ちになっています。

津田啓夢

津田啓夢

エディター。0歳で単身渡娑婆。一喜一遊、ワクワクを食べて生きる人。 一期は夢よただ狂え。趣味は手ぬぐい集め(地味)。

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