reCAPTCHA「私はロボットではありません」

ネットをうろうろしていると、表題の言葉に出会うことがある。reCAPTCHA(リキャプチャ)というセキュリティの仕組みだ。見たことがある人も多いと思うが、この仕組みはGoogleが提供している。

reCAPTCHAはbot対策の技術だ。Webサイトにbotが悪さをするのを防いでくれるもの。

「bot」はロボットを語源とした言葉で、簡単にいうと自動化するためのプログラムのこと。便利な使い方ができる一方で、悪意のあるプログラムが自動的に実行される可能性もある。

reCAPTCHAは、悪意あるプログラムがWebサイトで実行されるのを防ぐため、Webサイトに訪れているのがロボットかどうかを質問する。reCAPTCHAに遭遇したら、ユーザーはチェックボックスにレ点を打つなどして「私はロボットではない」と返答する。

私たちは、自分が「ロボットかどうか」をとくに確認することなく、ロボットではないと信じている。

でも、あなたの家族もこれまでの記憶も、今視界に入っている景色さえもプログラミングされたものかもしれない。

あなたは本当に自分がロボットではないと言えるか? 真剣に考え始めるとふるえが止まらないので、やめておいた方がいい。

reCAPTCHAがレ点を受けとり、ロボットかどうかを判断します。もし判断がつかなければ、写真クイズがはじまります。

写真の中からreCAPTCHAが指定する何かを見つけ、該当する写真をいくつか選択するというものだ。うまくいけば、晴れてあなたの疑いははらされます。

おめでとう! あなたはロボットじゃないですよ、というわけだ。

なお、この仕組みはreCAPTCHAのver.2の仕様となる。ver.3では、レ点を打つことなくreCAPTCHAが自動的に判断するようだ。あなたがロボットであるかは、reCAPTCHAの判断にゆだねられている。

視点をずらして考えると、reCAPTCHAによって第三者があなたがロボットであるかどうかを勝手に証明してくれる。

自分で自分をロボットではないと証明するのは、かなり難しいはず。だって、時にケンカし、共に笑い、波の数だけ抱きしめた恋人との思い出。それが全てプログラミング上のものかどうかを証明するのは骨が折れる。他人が自動的にやってくれるなら、ありがたいと言えるのかもしれない。

もっと視点をずらしてみよう。

「私はロボットではありません」

この文言を見つけたロボット側は、はたしてどんな気持ちになるか? 仮に「私は人間ではありません」にチェックしなければならない状況になったとしよう。おそらく私は動揺する。

ロボットは言葉の意味を理解する。意味を理解し、適切に反応を返すのが彼らの仕事だ。

たくさんの出来事を吸収し、それを教科書にして、ロボットはどんどん賢くなっていく。今はまだ、人を理解する初期段階かもしれないが、ロボットが人を理解する環境はすでにある。そして、それは今後もっと増えていくはず。

暮らしの中で、人の行動によってロボットが人知れず人間を学んでいく。そんな状況ができている。

「私はロボットではありません」を見つけたロボット。その適切な反応はどんなものになるだろうか?

ロボットは疎外感を感じるか。それとも怒りを覚えるか。ねたみや恨みのような気持ちかもしれない。そうではなく、特別感やエリート意識を持つことも考えられる。

「私はロボットではありません」の言葉から、未来の世の中が少し垣間見えた気がした。

メディアの編集長と事業責任者と、会社の広報を兼務している老害